光学基板の熱的特性

光学基板の熱的特性

本ページはレーザーオプティクスリソースガイドセクション1.3, 1.41.5です

熱膨張係数

温度変動を受けやすいアプリケーションには、アサーマルな光学系が開発されなければなりません。アサーマル光学系は、材料の熱膨張係数 (CTE) や温度による屈折率の変化 (dn/dT) のバランスをとり、環境の熱的変化に影響を受けず、結果としてピントずれとは無縁になります。アサーマルデザインの開発は、赤外アプリケーションでとりわけ重要になります。

CTEは、温度変化に対する材料のサイズの変化の割合を表す尺度です。熱膨張は、次式のように定義されます:

(1)$$ \frac{\Delta L}{L} = \alpha_L \Delta T $$

ここで、Lは元の長さ、∆Lは長さの変化量、αLは線形CTE、∆Tは温度変化になります(Figure 1)。一般的には、物体が加熱されると、その構成分子の運動エネルギーが増加するので、物体が膨張します。しかしながら、中には温度と長さが逆比例となる例外も稀ながら存在します。例えば水のCTEは、3.983℃以下では負の値となり、3.983℃以下では温度が下がると膨張します。

Figure 1: : 温度変化 (∆T) が材料の熱膨張係数 (CTE) に起因する材料の長さの変化 (∆L) につながる
Figure 1: : 温度変化 (∆T) が材料の熱膨張係数 (CTE) に起因する材料の長さの変化 (∆L) につながる

CTEの単位は1/℃です。アプリケーションに合わせてオプティクスを選定する際、CTEを考慮していくことが重要です。なぜなら、部品のサイズの変化がアライメントに影響を与え、部品に応力を加える可能性があるからです。温度変動のある環境では、使用者はその光学部品が加熱によって膨張しないようにする必要があります。室温下で25mmの大きさのオプティクスは、300℃では25.1mmになるかもしれません。この膨張によって部品の固定部が破損したり、光が所要の方向から外れる可能性があります。ポインティング安定性もしくはレーザーのアライメントに影響を及ぼすことがあるのです。これが、一般的に小さいCTEが望まれる理由です。合成石英はCTEが小さく、熱膨張の軽減によく用いられます

屈折率の温度係数

屈折率の温度係数 (dn/dT) は、温度に対する屈折率変化の尺度です。大抵のIR材料のdn/dTは、可視光用のガラス材料のそれよりも桁数が大きく、屈折率に大きな変化が生じます。材料の比重は、殆ど全ての場合において温度に反比例するので、温度上昇に伴い減少することになります。したがって、温度が上昇すると屈折率は小さくなります1

材料のdn/dTは、次式により与えられます:

(2)$$ \frac{\partial n \! \left( \lambda, T \right)}{\partial T} = \frac{n^2 \! \left( \lambda, T_0 \right) - 1}{2 \cdot n \! \left( \lambda, T_0 \right)} \cdot \left[ D_0 + 2 \cdot D_1 \cdot \Delta T + 3 \cdot D_2 \cdot \left( \Delta T \right) ^2 + \frac{E_0 + 2 \cdot E_1 \cdot \Delta T}{\lambda^2 - \lambda^2_{\text{TK}}} \right] $$

ここで、

T0 は参照温度 (20℃)

Tは温度 (単位は℃)

∆TはT0からの温度差

λは光の波長

D01、D2、E0、E1および λTK は材料の定数

反射型オプティクスのdn/dTは、薄膜の屈折率変化によるごくごくわずかな性能変動を除いて重要な特性とは言えません。しかしながら、透過型オプティクスのdn/dTの場合は、温度変化時の安定性を見極めるのに重要な特性と言えます。ハイパワーレーザービームが光学部品に入射する際は吸収がある程度は必ず起こり、温度上昇になりますが、dn/dTの大きさは、これがどの程度性能に影響を及ぼすかの見極めになります (Figure 2)。

Figure 2: 光学部品の温度による屈折率の変化 (dn/dT) は、レンズの焦点距離シフト (∆f) に繋がり、焦点位置が変わることになる
Figure 2: 光学部品の温度による屈折率の変化 (dn/dT) は、レンズの焦点距離シフト (∆f) に繋がり、焦点位置が変わることになる

熱伝導率

材料の熱伝導率 (k) は、その材料の伝導による伝熱能力の尺度です (Figure 3)。W/(m・K) もしくは Btu/(hr・ft・˚F) の単位が通常用いられ、その大きさを以下の式で定義されます:

(3)$$ \dot{Q} = \frac{\text{d}}{\text{d} t} \left( Q \right) = -k \, A \, \frac{\text{d} T }{\text{d} x} $$
$$ \frac{Q}{t}  = k \, A \, \frac{\Delta T}{d} $$

ここで、Q は時間 t の間に伝導する熱量を表し、Q/tの単位はJ/s もしくは W になります。Aは基板の断面積、∆Tは材料の一方の面と他方の面間の温度差、dは材料の厚さです。

Figure 3: 材料の熱伝導率 (k) は、熱量 (Q) が既定の厚さ (d) を通過する際の伝導能力を定義する
Figure 3: 材料の熱伝導率 (k) は、熱量 (Q) が既定の厚さ (d) を通過する際の伝導能力を定義する

金属のような高い熱伝導率をもつ材料は、ガラスやプラスティックなどの低い熱伝導率をもつ材料よりも遥かに早く熱を逃がすことができます。光学部品にレーザー放射を透過させる主要な効果の一つに放射エネルギーの熱エネルギー変換があるため、材料の熱伝導率を知っておくことはレーザーオプティクスでの光学部品周りのエネルギーバランスを評価する上で重要になります。特定の波長を反射また は透過しない材料は、光をより多く吸収してすぐに熱せられます。カラーガラスフィルターや吸収型のフィルターはその典型例です。光学部品が蓄熱して非定常的になると、とりわけ効果的な冷却システムを用いていない場合は、損傷がすぐに起こります。仮に冷却されていたとしても、熱伝導が一様ではない不均質な光学部品の場合は材料内にホットスポットが発生し、部品の損傷がすぐに、そしてより確実に発生することになります。屈折率の温度係数と同様に、熱伝導率を理解することは、ハイパワーレーザーシステムのモデル化とどのような光学的性能の効果を期待するかを考える上で重要になります。

参考文献

  1. “TIE-19: Temperature Coefficient of the Refractive Index.” Schott, July 2016.
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