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赤外 (IR) アプリケーションで使用する正しい材料
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赤外 (IR) アプリケーションで使用する正しい材料

赤外の概論 | 正しい材料を用いる重要性 | 正しい材料の選定 | 赤外透過材料の比較

赤外の概論

 赤外 (Infrared; IR)放射は、主として0.75 ~ 1000 μm (750 ~ 1,000,000nm)までの波長範囲を差します。IR放射は、検出器の感度上の限界に応じて通常0.750 ~ 3 μm, 3 ~ 30 μm, 30 ~ 1000 μm の3つの波長領域に分けられ、それぞれを近赤外 (Near-infrared; NIR), 中波赤外 (Mid-wave infrared; MIR), 遠赤外 (Far-infrared; FIR)と称しています (Figure 1)。赤外用の光学部品は、サーマルイメージングにおけるIR信号の検出からIR分光での成分特定まで、様々なアプリケーションに幅広く用いられます。IRアプリケーションでのニーズが増えて生産技術も進化していく中、光学部品メーカーは平面光学素子 (ウインドウミラー偏光素子ビームスプリッタープリズムなど)や球面レンズ (平凹/平凸や両凹/両凸, メニスカスなど)、非球面レンズ (放物面, 双曲面, ハイブリッドなど)や色消しレンズ光学アッセンブリ品 (イメージングレンズ, ビームエキスパンダー, 接眼レンズ, 対物レンズなど)に赤外透過材料を利用し始めました。赤外透過材料の物理的特性は各種一様ではないため、各材料の特長を知ることでIRアプリケーションに対する正しい材料の選定が可能になります。

Electromagnetic Spectrum
Figure 1: 電磁スペクトル

正しい材料を用いる重要性

 赤外光は可視光よりも長い波長の電磁波から構成されるため、光学媒質を伝搬する際には可視光のそれとは全く異なるふるまいを起こすことがあります。合成石英やN-BK7、サファイアといった光学材料は、IRと可視のどちらのアプリケーションにも用いることができますが、その帯域での使用により適した材料を用いることで、光学系の性能を最適化することができます。このコンセプトを理解するためには、透過率や屈折率、分散や屈折率勾配といったパラメータを考慮していかなければなりません。光学的スペックや特性に関するより詳細な情報は、光学ガラスのページをご覧ください。

透過率

 材料を定義する主要な特性に透過率があります。透過率はスループットを定量化したもので、入射光量に対する出射光量の相対百分率で定義されます。赤外透過材料の多くは可視域において光学的に不透明ですが、反対に可視域で透過する材料はIRにおいて通常不透明だったりします。光学的に不透明という表現を換言すれば、その波長域における透過率がほぼ0%になるということです。例えば、シリコンの場合、IRの電磁波は透過しますが、可視光は全く透過しません (Figure 2)。

Uncoated Silicon Transmission Curve
Figure 2: 未コートのシリコン材料の分光透過曲線

屈折率

 主に透過率をベースに赤外透過か可視光透過に材料を分類するのに対し、別の重要な特性に屈折率 (nd)があります。屈折率は、媒質中における光速に対する真空中の光速の比で定義され、光が低屈折率媒質から高屈折率媒質に入射する時に光の速度がどの程度遅くなるかを定量化します。屈折率は、光が異なる媒質の境界面に斜入射で入射する時にどの程度屈折するかも表します。この時、屈折率 (nd)の値が大きくなると、光の屈折はより大きくなります (Figure 3)。

Light Refraction from a Low Index to a High Index Medium
Figure 3: 低屈折率から高屈折率への光の屈折

 可視光透過材料の屈折率がおおよそ1.45 ~ 2の範囲内にあるのに対し、赤外透過材料のそれは1.38 ~ 4の範囲内になります。多くの場合、屈折率と比重は正の相関関係をとるため、赤外透過材料は可視光透過材料よりも一般に重くなります。しかしながら、屈折率が高いとより少ないレンズ枚数で回折限界性能を得ることができるようになるため、光学系全体としての重量やコストを削減することができます。

分散

 分散は、材料の屈折率が光の波長によってどの程度変わるのかを定量化します。分散によって、色収差として知られる波長の分離する大きさも決定されます。分散の大きさは、定量的にアッベ数 (vd)の大きさに反比例します。アッベ数は、電磁波のF線 (486.1nm), d線 (587.6nm), 及びC線 (656.3nm)の波長における材料の屈折率の関数として表わされます (下記公式 1)。

Equation 1 (1)

 アッベ数が55を超える分散の少ない材料はクラウンガラスと見なされ、アッベ数が50未満の分散の大きい材料はフリントガラスと見なされます。可視光透過材料のアッベ数は20 ~ 80の範囲内に収まるのに対して、赤外透過材料のアッベ数は20 ~ 1000の範囲内になります。

屈折率勾配

 媒質の屈折率は、温度変化と共に変化します。この屈折率勾配 (dn/dT)は、安定しない周囲環境で使用する際に問題となることがあります。特に、単一の屈折率値で機能するようにデザインされたシステムでは問題となります。残念なことに、赤外透過材料のdn/dTは、可視光透過材料のそれよりも大きい値になるのが通常です (可視域で機能するN-BK7と、赤外透過材料の比較中の主要材料特性表の中で唯一赤外域で透過するゲルマニウムを比べてみてください)。

正しい材料の選定方法

 正しい赤外透過材料を選定する時、考慮すべき3つの単純なポイントがあります。可視光透過材料と比べた場合、赤外透過材料の種類は遥かに少ないため、選定プロセスはさほど難しくありません。しかしながら、加工コストや材料コストの高さから、赤外透過材料はより高価になりがちです。

  1. 熱的特性 – 光学材料は、周囲温度が変動する環境に設置されることがよくあります。加えて、IRアプリケーションに共通して起こる懸念に多量の熱発生の問題があります。材料の屈折率勾配や熱膨張係数 (Coefficient of Thermal Expansion; CTE)といった特性は、所望する性能に適合するかを使用者が見極めるのに用いられます。CTEは、温度変化に対して材料が膨張したり収縮したりする度合いを表します。例えば、ゲルマニウムにはとても高い屈折率勾配があり、熱的に不安定な環境で用いられた時に光学性能が低下する可能性があります。
  2. 透過率 – 実際に使用するIRのスペクトル領域は、アプリケーションによって異なります。使用する波長に依存し、より高い透過率を有する赤外透過材料が異なります (Figure 4)。一例として、システムがMWIRで機能する場合、ゲルマニウムは、NIRで透過率が良好なサファイアよりもより良い選択肢となります。
  3. 屈折率 – 赤外透過材料は、可視光透過材料よりも屈折率変化がより大きくなるため、システム設計上でより大きな変動を引き起こします。可視スペクトル全体で良好に機能する可視光透過材料 (N-BK7など)とは異なり、赤外透過材料はIRスペクトル内の一部のバンドでの使用に制限されることもよくあります。反射防止コーティングが施される場合は、特にそうなります。
Infrared Substrate Comparison
Figure 4: 光学材料の主要透過波長帯の比較 (N-BK7の波長域は、可視波長用に主として用いられる他の標準的光学ガラス (B270やN-SF11、ボロフロート®など)の透過域を代表して表しています。

赤外透過材料の比較

 多くの赤外透過材料が存在する中、オプティクスやイメージング、フォトニクス産業向けに在庫販売製品として用いられる主要な材料は非常に限定されます。フッ化カルシウム合成石英ゲルマニウム、フッ化マグネシウム、N-BK7、臭化カリウム、サファイアシリコン、塩化ナトリウム、ジンクセレン硫化亜鉛は、それぞれ他の材料とは異なる独特な特性を有し、独自のアプリケーションに用いられます。以下の表は、これらの共通的に用いられる材料の特性を比較したものです。

主要赤外透過材料の特性
材料名屈折率 (nd)アッベ数 (vd)比重
(g/cm3)
熱膨張係数 CTE
(x 10-6/°C)
屈折率勾配 dn/dT
(x 10-6/°C)
ヌープ硬度
フッ化カルシウム (CaF2) 1.434 95.1 3.18 18.85 -10.6 158.3
合成石英 (FS) 1.458 67.7 2.2 0.55 11.9 500
ゲルマニウム (Ge) 4.003 N/A 5.33 6.1 396 780
フッ化マグネシウム (MgF2) 1.413 106.2 3.18 13.7 1.7 415
N-BK7 1.517 64.2 2.46 7.1 2.4 610
臭化カリウム (KBr) 1.527 33.6 2.75 43 -40.8 7
サファイア 1.768 72.2 3.97 5.3 13.1 2200
シリコン (Si) 3.422 N/A 2.33 2.55 1.60 1150
塩化ナトリウム (NaCl) 1.491 42.9 2.17 44 -40.8 18.2
ジンクセレン (ZnSe) 2.403 N/A 5.27 7.1 61 120
硫化亜鉛 (ZnS) 2.631 N/A 5.27 7.6 38.7 120

 

赤外透過材料の比較
材料名特徴 / 代表的アプリケーション
フッ化カルシウム (CaF2) 低吸収かつ屈折率の均質性が高い
分光や半導体加工、冷却サーマルイメージングでの使用
合成石英 (FS) 合成石英
干渉実験やレーザー装置、分光での使用
ゲルマニウム (Ge) 高屈折率、高ヌープ硬度、MWIR~LWIRで卓越した透光性
サーマルイメージングやIRイメージングでの使用
フッ化マグネシウム (MgF2) 高い熱膨張係数、低屈折率、可視~MWIRに良好な透光性
反射防止コーティングを要しないウインドウやレンズ、偏光板での使用
N-BK7 低コスト材料で、可視~NIRアプリケーションで良好に機能
マシンビジョンや顕微鏡、工業用途での使用
臭化カリウム (KBr) 機械的衝撃に対して良好な耐性と水溶性、また広い透過波長域
FTIR分光での使用
サファイア 硬くて丈夫、またIRにおいて良好な透光性
IRレーザーシステムや分光、及び耐環境を求める用途での使用
シリコン (Si) 低コストかつ軽量
分光やMWIRレーザーシステム、テラヘルツイメージングでの使用
塩化ナトリウム (NaCl) 水溶性で低コスト、卓越して広い透過帯、熱衝撃には弱い
FTIR 分光での使用
ジンクセレン (ZnSe) 低吸収で熱衝撃に対して高い耐性
CO2 レーザーシステムやサーマルイメージングでの使用
硫化亜鉛 (ZnS) 可視とIRの両方において優れた透光性、またジンクセレンよりも硬く、より高い耐化学性
サーマルイメージングでの使用

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