収差がマシンビジョン用レンズに与える影響
Edmund Optics Inc.

収差がマシンビジョン用レンズに与える影響

著者: Gregory Hollows, Nicholas James

本ページはイメージングリソースガイドセクション6.2です

 収差理論は広大な議論内容ですが、球面収差や非点収差、像面湾曲や色収差などの基礎的な光学収差に関して基本知識を身につけておくことが、その後の理解を容易にします。

球面収差 (Spherical Abberration)

 球面収差は、光線がレンズを通過する際、レンズの入射開口位置によって異なる距離に焦点を結ぶ現象です。球面収差の大きさは、開口サイズの関数になります。入射光線の角度が入射面に対して急になればなるほど、レンズが光を屈折する量も大きくなり、焦点位置の誤差を大きくしていきます (Figure 1参照)。口径の大きな (Fナンバーの小さな)レンズは、球面収差がより大きくなり、画質に負の影響を与えます。レンズに沢山の球面収差がある場合、レンズの絞りを絞ってFナンバーを高くすると、画質を改善することができますが、画質の改善には限界があります。レンズの絞りを絞りすぎてしまうと、光の回折を招き、性能改善がその時点を境に止まることになります (回折限界の項をご覧ください)。ファストレンズ (Fナンバーの小さいレンズ)で球面収差を補正するには、高屈折率ガラスを光学系の一部に使用したり、レンズ素子枚数を増やすことで可能になります。この種のデザインは、レンズの各面で屈折する量を減らせるため、その結果球面収差の量を減らすことができます。しかしながら、これを行うことにより、サイズや重量、また組みレンズ品のコストが増えることになります。

Example of Spherical Aberratio
Figure 1: 球面収差の例: レンズの縁近くに入射する光は、より短い距離に焦点を結ぶ

非点収差 (Astigmatism)

 非点収差の大きさは、画角の関数になります。端的に述べると、非点収差は、レンズが広角に機能する時に発生し、視野の一方向の画像性能が、それと直交する方向の同性能に比べて落ちるようになります。半分が水平方向、半分が垂直方向に整列した一連の白黒線パターンの画像を撮影すると、どちらかの方向の白黒線にピントが合い、他の方向の白黒線のピントがずれて映ります (Figure 2とFigure 3参照)。この現象は、物体の中心 (光軸上)から離れた位置から入射する光は、光軸上から入射する光とは異なり、レンズ入射面が回転対象面とならない結果起こります (Figure 4参照)。これを補正するには、次にあげる2つの事が必要になります。開口を挟んで左右対称なデザインにすること、そして視野側の光線入射角度が小さくなるように光学設計することです。左右対称なデザインにすることは、ダブルガウスレンズと似たレイアウトになることを意味します。なお左右対称デザインは、長い焦点距離と短いバックフォーカスを有する望遠系やリバース望遠系として使用することはできません。入射角度を小さくするには、球面収差を減らす際に行う対策と同じで、高屈折率ガラスやレンズ素子枚数の追加が必要になるため、サイズや重量、また組みレンズ品のコストが増えることになります。なお本解説では定義を単純化し、非点収差とコマ収差による各々の影響を意図的に組み合わせて、理解を容易にしています。

Field Point without Astigmatism
Figure 2: 非点収差のない画像
Field Point with Astigmatism
Figure 3: 非点収差のある画像

Off Axis Asymmetry
Figure 4: 軸外光線の非対称性

像面湾曲 (Field Curvature)

 像面湾曲 (Figure 5)は、像面が平坦ではなく、湾曲した状態を生み出す収差です。この収差は、システムを構成する各レンズ素子の焦点距離とその屈 折率を掛け合わせた総和がゼロにならないことから起こります。仮に総和が正値になる時 (市販のイメージングレンズによくある)、像面は凹面状に湾曲します。映画館にあるスクリーンが若干湾曲状になっていたりするのもこのためです。但し、マシンビジョン用のレンズにおいては、像面が湾曲することは通常許されないため、レンズ設計者は焦点距離の総和を減らすために負の焦点距離を持つ補正用素子を追加挿入しています。これにより、レンズ系の全長が長くなり、また補正用素子は通常像面に近い位置に配置することから、レンズのバックフォーカスを短くします。

Field Curvature Example showing Non-Planer Surface of Best Focus
Figure 5: ベストフォーカス面が平坦にならない像面湾曲の例

色収差 (Chromatic Abberration)

 色収差は、光の波長によって異なる場所に像を結ぶ現象です。ガラスの分散特性が波長によるガラス内の屈折率を決定するため、分散特性の異なるガラスで作られた正と負の焦点距離を有するレンズ素子を組み合わせてレンズ系をデザインすることで、色収差を取り除くことができます。Figure 6の図は、単レンズ (シングレットレンズ)とアクロマティックレンズ (ダブレットレンズ)の比較です。色収差を取り除くデザインは、レンズ素子枚数が増えることを意味します。

 収差を減らすためには、低屈折率のレンズ素子 (高アッベ数を有する)を通常用いる必要があります。前頁でも解説しましたが、高屈折率のレンズ素子は球面収差や非点収差を補正する際に必要となるため、これによりレンズ素子の枚数を増えることになります。加えて、色収差補正に最も必要とされるガラスは、その光学特性の特殊性から一般に高価で、レンズ系への導入が難しい場合があります。コスト削減や複雑性緩和の観点から、可能であるなら、単色光の照明に切り替えて色収差を最小化していくことを考えるべきでしょう。

Comparison of Singlet and Doublet Lens Spots
Figure 6: シングレットとダブレットレンズの集光スポット比較

色収差シフト

 色収差の種類の一つである軸上色収差は、各波長が光軸上のどの地点に焦点を結ぶかを表します。ほぼ全てのイメージングレンズデザインの究極ゴールは、所望の波長全てが同じ位置 (システム内でセンサーを設置する面)に焦点を結ぶことです。使用波長域が広域になると、単一平面上に焦点を結ばせるのは物理的に不可能です。しかしながら、近付けることは可能です。焦点を結ぶ全ての波長を同面に近付けることができれば、画像上の問題は少なくなります。

 Figure 7に色収差シフト曲線を紹介します。この曲線例は、アクロマティック (色消し)レンズのデザインのため、2波長が同一面で一時に焦点を結んでいます。グラフの縦軸は、可視スペクトルの波長帯を短波長側 (青)から長波長側 (赤)までを表しています。またグラフ中の黒い縦線は、センサー設置面を表します。青色の湾曲した曲線は、波長毎のベストフォーカスポジションです。この曲線形状は、横軸方向で捉えると、左に向かったり右に向かったりしていますが、黒い縦線と2か所の地点 (波長)で交わっていることから、アクロマティックなデザインであることが明らかです。

 青、緑、赤のドットは、LEDの代表的な発光中心波長の470nm (青), 520nm(緑), 630nm (赤)を各々表わします。緑のドットは、センサー設置面よりも左側に焦点を結んでいるのに対し、赤と青のドットは同面より右側に焦点を結んでいます。全ての可視域波長、即ち白色光の光が用いられる場合、このセンサー設置位置が最もバランスが取れています。このデザインは、全ての波長が真に同じ位置に像を結んでいないため、理想的画質になるとは言えません。仮に一つの波長だけを用いることができれば、他の波長の焦点位置を気にする必要がなくなるので、性能は改善します。本デザイン例では、赤と青の波長の焦点位置を合わせていますが、これで常に問題がなくなるとは言えません。市場に流通するほぼ全てのイメージングレンズは、この種のアクロマティックデザインを採用していますが、センサーの画素がより小さくなっていくと、問題が現れる可能性が出てきます。

 Figure 7と同じ尺度を採用したFigure 8は、アポクロマティックレンズの色収差シフト曲線です。アポクロマティックレンズは、2波長ではなく、3波長が同一面で一時に焦点を結びます。より複雑なデザインにはなりますが、可視スペクトル全体の色収差バランスに優れています。グラフの通り、上述のLED3色がセンサー面上に一時に像を結ぶため、優れた画質が得られます。一般的に、アポクロマティックレンズデザインは高性能ですが、ごく限られた倍率や作動距離範囲でしか良好に機能しないため、汎用性はさほど高くはありません。加えて、このデザインを実現するには、高価な硝材で作られたレンズ素子が必要になるため、高コストデザインになりがちです。ハイエンドの高倍率顕微鏡用対物レンズ製品の多くが、このアポクロマティックデザインを採用しています。

Chromatic Focal Shift Curve for an Achromatic Lens
Figure 7: アクロマティックレンズの色収差シフト曲線
Chromatic Focal Shift Curve for an Apochromatic Lens
Figure 8: アポクロマティックレンズの色収差シフト曲線

名目 対 実際

 「このレンズはどんな性能なの?」 - 一見シンプルな質問に思えますが、実は難解です。マシンビジョン用レンズの場合、使用する波長や物体への作動距離、レンズのFナンバー、センサーサイズといったいくつかのパラメータをまず決めなければなりません。次に、この質問の意図を明確にしていく必要があります。具体的には、実際のレンズ性能と名目上の性能のどちらを差しているのかについてです。

 名目と実際? - 名目上の仕様は、レンズが当初設計した通りに完全に組み立てられた場合の性能です。ZemaxやCode V等の光線追跡ソフトウェアにライブラリとして収録されているレンズを選ぶことで、あらゆるシナリオにおけるレンズ性能を予見することができ、データを引き出すことができます。但しこのシミュレーションは、設計した通りに完全に組み立てられた場合の性能を前提としているため、常にベストな予見になるとは限りません。現実世界のレンズ製品は、公差範囲内の様々な誤差を含んでいるからです。

 一方、実際の性能は、現実にある製造公差を元にレンズの性能を統計学的に予見しています。実際の性能は予見が難しく、各レンズ素子の形状や絶対位置、使用する硝材の屈折率やアッベ数といった、レンズ性能に影響を及ぼす数多くのパラメータを入力しなければなりません。典型的な公差ファイル、即ち設定可能なパラメータ全てをモデル化して使い分けられるコードは、Zemaxシミュレーションには100~200点レベル、Code Vシミュレーションには200~400点レベルあります。レンズ素子枚数や各素子の固定方法を元に、変更を加えていくことができます。

 実際の性能のモデル化用に単純化されたコードは、公差レンジを元に全てのパラメータをランダムに変えられ、どれだけの完成品が適切に作動するかを統計学的に評価します。特定の空間周波数やフィールドポイントでのMTFを始めとする2~3の特定パラメータで評価され、そこから性能要求を満足するレンズの確率を決定します。

 レンズの光学設計データの情報を見ることで、MTFやディストーション、スポットサイズといった評価基準を元にして、どのような設定条件でも名目上の性能を容易に予見することができます。その予見の正確性を、公差を含む実際の性能として表わすことはできませんが、特定使用環境に対して近似値となるため、便利な相対ツールとなります。

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