被写界深度と焦点深度
Edmund Optics Inc.

被写界深度と焦点深度

著者: Gregory Hollows, Nicholas James

本ページはイメージングリソースガイドセクション4.4です

 被写界深度と焦点深度は、名前や意味が似通っているがために、混同することがあります。本ガイドではこれを簡潔に定義し、被写界深度は、静止したレンズに対して物体の位置が前後に変化した時のレンズの画質に関するもの、対する焦点深度は、静止した物体に対してセンサーの位置が前後に変化する時に像のピントを維持するセンサー能力に関係したもので、センサー設置のチルト (傾き)もこのケースに該当します。

被写界深度

 レンズの被写界深度 (Depth of Field; DOF)とは、レンズのベストフォーカス位置に置かれた物体がレンズ位置に対して前後に移動する場合に、レンズのピントを再調整することなく、所望の画質 (特定のコントラスト性能における空間周波数)を維持する能力を差します。DOFは、幾何学的形状の複雑な物体や、高低差のある物体の撮像時に参考になります。物体がレンズでピントを合わせた位置に対して手前、或いは奥に置かれる時、像がボケ始めるために解像力とコントラスト性能に影響を与えます。このため、DOFの性能は、解像力とコントラストを条件に定義していくことが理にかないます。イメージングシステムのDOFの大きさを計測して評価するために、数多くのテストターゲット製品(アプリケーションノートの正しいテストターゲットの選択)を利用することができます。

DOFは解像力を要求する

 「このレンズの被写界深度は深いの?」 - お客様からよくある質問の一つですが、被検物体のディテールの大きさや像空間周波数を特定することなく定量化するのは大変難しい内容です。ディテールが小さくなればなるほど、解像すべき空間周波数が高くなり、レンズで捉えることのできるDOFが浅くなっていきます。DOF曲線は、特定ディテールサイズで所望する深度に対して実際にどう機能するかを調べるために用いることができます (レンズ性能曲線を参照)。これらのグラフは、特定のFナンバー条件で撮像可能な理論的限界を示すだけではなく、レンズデザイン自体の収差による影響も含んでいます。

 Figure 1は、X軸に作動距離範囲、Y軸にコントラストレベルを取り、20本/mmの固定空間周波数 (画像のディテール)で捉えることのできるレンズのDOF曲線です。Figure 1aの曲線はF2.8設定時で、Figure 1bの曲線はF4設定時のものです。DOFに関する他の注目すべき点に、レンズの倍率を小さくすると、DOFがより深くなる方向になる点があげられます。本グラフには複数の異なる色の曲線があり、各色がセンサー上に像を結ぶ異なる地点を表わしています。

Depth of Field Curves
Figure 1: レンズの被写界深度曲線 (F2.8時 (a)とF4時 (b))

 Figure 2は、Figure 1aと同じレンズですが、作動距離を変えています。作動距離を伸ばした時に、DOFが深くなります。無限遠に向けて、遥か遠くにある物体にレンズのピントを合わせると、ハイパーフォーカル条件が発生します。この条件では、レンズからある距離だけ離れた位置にある全ての物体にピントが合った状態になります。

Depth of Field Curves for a Lens at f/2.8 at 200mm WD and at 500mm WD
Figure 2: レンズの被写界深度曲線 (F2.8時で作動距離が200mm時 (a)と500mm時 (b)): グラフbの方はX軸の目盛が大きくふってあることに注意

Fナンバーが被写界深度にどう影響を及ぼす? – 概念

 Figure 3に示す通り、レンズのFナンバーを変えるとDOFの大きさも変化します。Figure 3にある上下どちらのケースにも、2種類の光線の軌跡が描かれています。黒の破線で描かれた光線は、物体からレンズ系に向かってどの範囲内の画像情報を取り込んでいるかを表わします。物体がベストフォーカス位置 (黒の2本の破線が交差したところ)から前後に動く時、物体のディテールは推体のより広いエリア内に移動します。錐体の広がり角が大きくなるほど、レンズからその距離分だけ離れたところで撮像できる周囲の情報が多くなり、像ボケも起きやすくなります。レンズのFナンバーは、この推角の広がりを制御し、どの位の情報やディテールが所定の距離で像ボケに関与するかを制限します。

Geometric Representation of DOF for High and Low f/# Lenses
Figure 3: Fナンバー設定が高い時と低い時のDOFの幾何学的再現

 図中の赤い推角も、システム解像力の再現性を角度の大きさで表わしています。黒の破線と赤の実線の2つの推角が交差するところが、被写界深度の全 領域になります。レンズのFナンバーを低くすると、黒の破線の推角が大きくなるため、被写界深度が結果的に浅くなります。

 物体のディテールがより小さくなると、Figure 3aやFigure 3b図中の光束がより密に近づくことになり、この現象を加速化させます。またFナンバーを高く上げすぎると、レンズの限界解像力はFナンバーの大きさに逆比例するため、物体のディテールが最終的に像ボケを始めます。Fナンバーを高くすることで被写界深度を深くすることはできますが、解像可能なサイズは反対に大きくなっていきます (ベストフォーカス位置においても)。回折限界とFナンバーの関係は、回折限界をご覧ください。短波長側の光を照明に利用することでこの部分を改善したり、また失った解像力性能の一部は、多くの方法で取り戻すことができます。波長を変えることがシステム性能にどのような影響を与えるかの更なる情報は、波長による性能上の影響をご覧ください。

 一般的に、短い作動距離でレンズのピントが合っている場合、上述の推角がベストフォーカス位置の前後のどちらかで急激に大きくなってしまうため、被写界深度を制限することになります。長めの作動距離でピントが合っている物体は、光束が広がっていく程度が少なくなるため、被写界深度は深くなっていきます。

例: クローズアップ – 物体レベルでのFナンバー効果

 Figure 4は、被検対象物中心部での光線束を図解したもので、各々F2.8時 (a)とF8時 (b)の様子を表わします。図中にある複数の縦線は、レンズのベストフォーカス面からレンズ (カメラ)に向けて2mm間隔ごとに記しています。どの縦線上にも、ディテールの一画素分を表わす四角形状のドットを記していま す。Figure 4aは、ベストフォーカス面から少しずれただけで光束の径がディテールのサイズを超えてしまい、ベストフォーカス面以外の場所で所望するディテールの大きさを再現するのが難しくなることがわかります。Figure 4bは、光束の拡がり (推角)がFigure 4aのそれよりも急ではないため、どの場所においてもディテールが光束の径よりも大きくなっています。Fナンバーを高くすると、被写界深度が深くなることがこの点からもわかります。

An Illustration of the Ray Bundle at the Center of an Object under Inspection
Figure 4: 被検対象物中心での光束の様子 (F2.8時 (a)とF8時 (b))

 Figure 5は、Figure 2と同じタイプの図ですが、実視野内の複数の地点における推角が表わされており、ベストフォーカス面の前後における解像力性能を端的に再現しています。Figure 5aでの各地点における光束同士の重なりは、Figure 5bに比べて早い時点 (ベストフォーカス面から比較的短い距離)で生じており、情報がいかに早く混ざり合うかを表わしています。レンズのFナンバーを低く設定すると、物体上の二つの異なるディテールからの情報が早い時点で混在し始め、像ボケが早く始まってしまう一例です。Fナンバー設定を高くすれば、この問題は改善されます。

An Illustration of Ray Bundles across a Portion of the Center of the Field of View
Figure 5: 実視野中心領域での光束の様子 (F2.8時 (a)とF8時 (b))

焦点深度 

 焦点深度は、像空間内で生じる被写界深度のようなものです。被検物体の位置が変わらない時にカメラのセンサー位置だけが前後に動く時、レンズのセンサー側でのピントの質がどう変わるかに関連しています。焦点深度は、レンズの結像面とセンサー面間の傾き (チルト)がどの程度許容できるかの参考になります。Fナンバーを低くしてレンズを明るくしていくと、焦点深度の深さも浅くなっていくため、センサー全面にわたってベストフォーカスを実現するのに上述のチルトがより重要になってきます。

 チルトに対する能動的調整を行わない限り、使用するセンサーとレンズ間にはある程度の角度的誤差が生じていることを理解しなければなりません。Figure 6は、この問題を端的に表わします。焦点深度に関する問題は、大判センサーとの使用時のみに起こると思われがちですが、実際はセンサーのサイズに依存しません。Figure 6内に記載の手引きで示した通り、焦点深度は使用するセンサーの画素数に大きく依存し、画素の配列状態 (ラインスキャンやエリアスキャンなど)や画素サイズとは余り関連していません。センサーの画素数が増えると、焦点深度に関する問題が増長されます。ラインスキャンアプリケーションの多くで、センサー長が長く、かつレンズを低Fナンバー設定で使用する際、物体、レンズ、センサー間の慎重なアライメント作業が必要になってきます。

How Sensor Tilt with respect to the Optical Axis affects Depth of Focus
Figure 6: 光軸に対するセンサーの傾き (チルト)が、焦点深度によりどのような影響を受けるか

センサーチルトの影響 

 Figure 7は、波長470nmの光を照明に用いた時のf=35mmレンズのMTF曲線です。Figure 7aはF2.8設定時、対するFigure 7bはF5.6時のものです。どちらのグラフも、150本/mmまでの空間周波数の性能をプロットしており、これは3.45μmの画素サイズを有するセンサーのナイキスト限界とほぼ同等の大きさになります。Figure 7aの性能は、Figure 7bのそれよりも遥かに良好なことがすぐにわかります。F2.8で設定したレンズを用いる方が、所定の物平面での画質に優れていることになります。しかしながら、前セクションで解説した通り、センサーチルトが、実際のシステムが作り出す画質に負の影響を与えます。特にセンサーの画素数が多くなるほど、この影響が大きくなります。

MTF Performance of a 35mm lens at f/2.8 and f/5.6
Figure 7: 35mmレンズのMTF曲線 (F2.8時 (a)とF5.6時 (b)): どちらのケースにおいても、回折限界性能の解像力がほぼ得られている

 Figure 8は、Figure 7で用いたf=35mmレンズのF2.8時とF5.6時での結像の様子を図解しています。どちらの図も、全体画像のベストフォーカス面を一番右側にある縦線で記しています。ベストフォーカス面の左側にある縦線は、レンズ側に12.5μm分と25μm分近付いた位置を表わし、センサー中心部から同コーナーにかけて各々12.5μmと25μm分の傾きがある場合の画素の位置を再現しています。青色は画像中心部の光束、対する黄線と赤線は画像コーナー部の光束です。黄線と赤線の光束を示した図には、3.45μmの画素サイズを有するセンサーのラインペアサイクル (2画素分)を記しています。Figure 8aのF2.8時の図でわかる通り、黄線と赤線の光束は、12.5μm分のチルトがあった場合のセンサーコーナー部の画素位置において、既に一部の光束が隣接する他の画素に入射してしまっています。また25μm分のチルトがあった場合は、赤線の光束が完全に2画素にまたがって入射しており、黄線の光束も半分程度しか所定の画素に入射していません。これにより、相当量の像ボケが発生します。これに対し、Figure 8bのF5.6時では、25μm分のチルトがあった場合でも黄線と赤線のどちらの光束も特定の一画素内のみに入射しているのが見て取れます。ちなみに青線の光束の場合は、センサーのチルトがあっても、センサー中心部を支点にして傾くため、画素の位置が変わることはありません。

Ray Bundles in Image Space of the same 35mm Focal Length Lens
Figure 8: 同じ35mmレンズの像空間側の光束 (F2.8時 (a)とF5.6時 (b)): 青線は画像中心部での光束、対する赤線と黄線は画像コーナー部での光束を表わす

 Figure 9は、Figure 8の25μm分のチルトがあった場合の35mmレンズの画像コーナー部でのMTF性能です。Figure 9aは、レンズをF2.8に設定した時の性能を表わし、Figure 4.21aでの性能から大きく落ち込んでいるのが見て取れます。Figure 9bは、レンズをF5.6に設定した時の性能を表わし、Figure 4.21bでの性能から余り落ちていないことがわかります。最も重要と思える点は、このレンズをF5.6で使用すると、画像コーナー側での性能がF2.8時のそれよりも大きく上回っている点です。但し、F5.6でシステムを動かすと、F2.8時に比べて入射光量が1/3になってしまうために、高速ラインスキャンアプリケーションでは問題となる可能性があります。最後に、センサーのチルトがセンサー中心部を支点に起こると想定すれば、画質の低下はセンサーの片端部で起こるの ではなく、両端部で起こることになります。即ち、実視野内の両端のエリアで像ボケが発生することになります。個体レベルでのカメラとレンズの組み合わせは、一つとして同じものはありません。同じ型番のカメラとレンズを用いて複数のシステムを組み上げたとしても、個々のカメラとレンズの組み合わせ方でチルトの度合いも様々です。

MTF Performance of a 35mm Lens at f/2.8 and f/5.6
Figure 9: 像面側チルトによって25μm分のシフト (Z軸方向)がある場合の35mmレンズのMTF曲線 (F2.8時 (a)とF5.6時 (b))

 この問題に対処するため、使用するカメラやレンズは、厳しい公差で規格/製造されたものを利用していくべきです。加えてレンズ製品の中には、対センサー用にチルト補正機構を搭載したものも存在します。なお一部のラインスキャンセンサーには、センサー途中に一時的な凹みがあり、センサー面が完全にフラットになっていないものもあります。こういったセンサーの場合、上述のチルト補正機構を搭載したレンズを用いても問題を改善したり、完全に取り除くことはできません。

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