分散

分散

本ページはレーザーオプティクスリソースガイドセクション1.1です

光学部品、とりわけレーザーアプリケーションに用いる場合は、部品の基板の特性に特に注意を払う必要があります。光学部品には広範な光学ガラスや結晶材料が基板として用いられます。これらの材料の特性や製造プロセス中に生じる可能性のある不具合を理解することで、アプリケーションに合わせた適切な光学部品の選定が確実に行えるようになります。基板には分散や熱吸収特性、均質性や表面下損傷を始め、キーとなる特性が数多くあり、光学部品用の基板の選定に大きな影響を及ぼします。

分散は、光が光学媒質を透過する際、光学的周波数/波長といったパラメータに依存して光の位相速度もしくは位相遅延が変化する現象です。レーザーオプティクスの基板内部で生じる分散には、波長分散 (Figure 1) や多モード分散、偏波モード分散など、いくつかのタイプがあります1

>Figure 1: UVグレード合成石英ガラスの波長別屈折率
Figure 1: UVグレード合成石英ガラスの波長別屈折率

屈折率は、真空中における光速と、空気やガラスなどの媒質中を通過する光波の速度比で表されます。パルスレーザーアプリケーションでは、光を波長ではなく、周波数で表すのが一般的です。なぜなら、光の波長はその大きさが通過する材料の屈折率に依存するのに対し、同アプリケーションでは時間の方が一般的により重要な概念であり、また光の周波数は固定値になるからです。波長 $ \small{\left( \lambda \right)} $ は、角振動数 $ \small{\left( \omega \right)} $、屈折率 $ \small{\left( n \right)} $、および光速 $ \small{\left( c \right)} $ と以下の関係があります:

(1)$$ \lambda = \frac{2 \pi \, c}{\omega \, n} $$

材料の屈折率は、その材料定数、$\small{B_1}$、$\small{B_2}$、$\small{B_3}$、$\small{C_1}$、$\small{C_2}$および$\small{C_3}$を係数とする次式(セルマイヤの分散式) でよく表されます:

(2)$$ n^2 \! \left( \lambda \right) - 1 = \frac{B_1 \, \lambda ^2}{\lambda ^2 - C_1 } + \frac{B_2 \lambda^2}{\lambda^2 - C_2} + \frac{B_3 \lambda^2}{\lambda ^2 -C_3} $$

波長分散は、媒質内での光の速度 $\small{\nu _{p}}$ の大きさが波長に依存し、大抵の場合は光と媒質内の電子間相互作用から生じます。波長分散の大きさは、アッベ数(Figure 2) を用いて表すことができます。アッベ数は、波長 $ \small{\lambda} $ の屈折率に対する一次偏導関数を表し、屈折率と波長間の二次偏導関数に関連した部分分散にも対応しています。


Figure 2: 主要な硝種の屈折率とアッベ数の関係を示すアッベダイアグラム図。熱膨張係数 CTE (Coefficient of Thermal Expansion) は 熱膨張係数の項で解説される

アッベ数は次式で与えられます:

(3)$$ V_D = \frac{n_D - 1}{n_F - n_C} $$

$\small{n_D} $、$\small{n_F} $および$\small{n_C} $は、フラウンホーファースペクトルのd線 $ \small{\left( 589.3 \text{nm} \right)} $、F線 $ \small{\left( 486.1 \text{nm} \right)} $ および C線 $ \small{\left( 656.3 \text{nm} \right)} $ の各波長での基板の屈折率です。材料のアッベ数は、波長の屈折率に対する導関数を用いてどの波長で表すこともできます。

(4)$$ V_{\lambda} = -\frac{1}{2} \left(n - 1 \right) \frac{\text{d} n}{\text{d} \lambda} $$

レーザーアプリケーションに対する主要な課題は、分散が媒質内を通過するレーザーパルスの特性にどのような影響を与えるかです。これは、波数に対する媒質内の光の位相速度の変動の大きさ、即ち群速度 $ \small{\nu _g} $で表されます。

(5)$$ \nu _g = \left( \frac{\partial k}{\partial \omega} \right)^{-1} = c \left[ \frac{\partial}{\partial \omega} \left( \omega n \! \left( \omega \right) \right) \right] ^{-1} = \frac{c}{n \! \left( \omega \right) + \omega \frac{\partial n}{\partial \omega}} = \frac{c}{n_g \! \left( \omega \right)} $$

ここで、波数 $ \small{ \left( k \right)} $ は$ \tfrac{2 \pi}{\lambda} $ であり、時にはスペクトル位相と呼ばれることもあります。複数の波長を含む光がある材料を通過する時、周波数 (波長) の群速度依存性から、長波長 (低周波数) の方が短波長よりもわずかながら早く通過するのが通常です2 。これにより、プリズムを通過する光が材料のスペクトル分散によって各構成色に分離されるのと同じ様に、波面の位相のスペクトル変動が生じます。群速度が周波数に対する位相速度の一次導関数として与えられるため、群速度分散 (Group Velocity Dispersion; $\small{\text{GVD}}$) は、周波数に対する逆群速度の導関数として次式のように表されます。

(6)$$ \text{GVD} = \frac{\partial}{\partial \omega} \left( \frac{1}{v_g} \right) = \frac{\partial}{\partial \omega} \left( \frac{\partial k}{ \partial \omega} \right) = \frac{\partial ^2 k}{\partial \omega ^2} $$

群速度は、屈折率の一次導関数が波長または周波数に対応するという点でスペクトル分散と似ており、$\small{\text{GVD}}$は、その二次導関数が波長または周波数に対応することから、部分分散と同様に用いられます。低$\small{\text{GVD}}$用のオプティクスの設計は、色補正された性能を設計するのに似ています。違う点は、アッベ数や部分分散よりもむしろ群速度や$\small{\text{GVD}}$に注目している点です。

$\small{\text{GVD}}$は波長に大きく依存し、その単位は $ \tfrac{\text{fs}^2}{\text{mm}} $  が一般的に用いられます。例えば、合成石英の$\small{\text{GVD}}$は、$ \small{589.3 \text{nm}} $ で $ +57 \tfrac{\text{fs}^2}{\text{mm}} $、$ \small{1500 \text{nm}} $ では $ -26 \tfrac{\text{fs}^2}{\text{mm}} $です。この2つの波長の間のどこかに (約 $ \small{1.3\text{µm}} $で)、$\small{\text{GVD}}$がゼロとなるゼロ分散波長が存在します。Figure 3に合成石英の波長別$\small{\text{GVD}}$特性を紹介します。光ファイバー通信では、$\small{\text{GVD}}$は周波数ではなく、波長に関連した導関数として一般に定義され、通常は $ \tfrac{\text{ps}}{\left( \text{nm} \cdot \text{km} \right)} $ の単位で規定されます。

>Figure 1.3: 1.3µm付近にゼロ分散波長をもつ合成石英の波長別GVD特性
Figure 3: 1.3µm付近にゼロ分散波長をもつ合成石英の波長別GVD特性

Figure 3から分かる通り、$\small{\text{GVD}}$は波長によって大きく変動します。これは、パルス持続時間がおおよそ30fs以下の短パルスレーザーにとり、とりわけ大きな問題となります。なぜなら、短パルスレーザーの波長スペクトルは本質的に広いからです。また色分散が光学面で周波数に依存した屈折角を作り、角度分散や周波数に依存した光路長差が生じます。これは、超短パルスレーザーシステムなどの広帯域システムに大きな影響を及ぼします。

多モード分散は、マルチモードファイバーなどの導波路内で光の群速度や光学的周波数、また伝搬モードに依存しています2。このことは、マルチモード光ファイバー通信システムにおいては、実現可能なデータ通信速度、即ちビットレートに厳しい制限を与えることになります。多モード分散は、シングルモードファイバーか屈折率分布が放物線形状を描くGI型マルチモードファイバーを用いることで、防げる可能性があります。

偏波モード分散は、高データ通信レートのシングルモードファイバーシステムに関連するモード分散で、媒質内の光の伝搬特性が偏光状態に依存しています。こうした3種類の分散全てが、自由空間や光ファイバー内の超短パルス信号の時間的膨張や圧縮を招き、個々のパルスが混ざりあって各々が認識できなくなる可能性を引き起こします (Figure 4)。

>Figure 4: 分散がファイバーを伝搬するレーザーパルスを時間的に拡げ、個々のパルスが認識できなくなるまでにさせる
Figure 4:  分散がファイバーを伝搬するレーザーパルスを時間的に拡げ、個々のパルスが認識できなくなるまでにさせる


参考文献

1 Paschotta, Rüdiger. Encyclopedia of Laser Physics and Technology, RP Photonics, October 2017, www.rp-photonics.com/encyclopedia.html.

2 Ghatak, Ajoy, and K. Thyagarajan. “Optical Waveguides and Fibers.” University of Connecticut, 2000.

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