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ケーススタディ:
持続可能な農業のSWIRイメージングに向けた学生開発のハイパースペクトル超小型衛星

Iliya Shofman 著
UTAT Space Systems、光学リーダー

未来は、データに基づく持続可能な農業の実践にかかっています。

University of Toronto Aerospace Team(UTAT)は、地球観測用CubeSat「FINCH」を開発している学部生による設計チームです。FINCHは、「Field Imaging Nanosatellite for Crop residue Hyperspectral mapping(作物残渣のハイパースペクトルマッピング用フィールドイメージング超小型衛星)」の略称です。わずか10x10x30cmのFINCHには、カスタム光学系と市販光学系を組み合わせて独自開発したSWIR領域のハイパースペクトルイメージング用ペイロードが搭載されます。Edmund Optics®は、TECHSPEC® SWIRイメージングレンズの一部を提供することでUTATを支援しています。

ハイパースペクトル地球観測は、研究者や農業従事者による作物の生育状態のモニタリングや天然資源の保全をはじめ、さまざまな生態学的研究に役立つ強力なイメージング手法です。University of Toronto Aerospace Team(UTAT)は、最先端の衛星と比較して約1000分の1のコストでありながら、用途に十分な画質を実現し、既存の観測手段ではカバーできない「センシングギャップ」を埋めることで、農業従事者による持続可能な農業の実践に貢献するハイパースペクトルイメージング超小型衛星を開発しています。UTATは現在、Edmund OpticsのSWIRレンズを使用してハイパースペクトルイメージング用ペイロードのプロトタイプを製作しており、認定試験に向けて開発を進めています。

バリュープロポジション:
ハイパースペクトルイメージング超小型衛星

衛星画像と聞いて、まずGoogle Earthを思い浮かべる方も多いでしょう。こうした一般的なRGB画像には豊富な地理空間情報が含まれていますが、地上で起きていることのすべてを把握できるわけではありません。一方、マルチスペクトルイメージングセンサーを使用すれば、十数個の波長帯を持つパンクロマチック画像を取得でき、地表に存在する物質の識別や分類に役立てることができます。しかし、正確な定量測定や識別が困難な物質を特定するには、さらに高いスペクトル分解能が必要です。ハイパースペクトルイメージャーは、画像の各「画素」について精密なスペクトル情報が必要な用途で使用され、通常のイメージングセンサーやマルチスペクトルセンサーでは得られない豊富な情報を取得できます。例えば、Figure 1の右下にある池は、航空画像だけでは小さな農地と見間違える可能性がありますが、スペクトル情報を利用することで明確に識別できます。

Figure 1のグラフィカル表示
Figure 1: ハイパースペクトル画像を利用することで、地表を構成する物質を定量的に評価できます。土壌、作物残渣、その他の地表面の代表的なスペクトルを右側に示し、航空画像上の対応箇所を左側に示しています。航空写真:Magda Ehlers 1

ハイパースペクトル地球観測リモートセンシングは、気候科学や持続可能な農業の分野で重要な役割を果たします 2, 3。ドローンや航空機による手間のかかる航空観測とは異なり、衛星は一度打ち上げれば、少ない運用コストで地球表面のほぼ全域からデータを収集できます。既存の衛星は高品質なハイパースペクトルデータを取得できますが、同じ地上観測地点を再び観測できるのは数週間に1回程度であるため、観測範囲に制約があります。超小型衛星ならではの利点は、製造コストが大幅に低く、多数を配備することで世界中の陸地を毎日観測できることです。しかし、高性能な光学システムを小型の超小型衛星に収めることは容易ではありません。

FINCHミッションでは、UTATは農地における作物残渣の分布測定に重点を置いています。作物残渣とは収穫後に残るバイオマスのことで、農業ではこれをそのまま残して分解させ、栄養分を土壌へ還元することがあります 4。しかし、適切な量を保つことが重要です。作物残渣を残しすぎると害虫や病原体が土壌中に残る原因となる可能性がある一方、少なすぎると農地が侵食されやすくなります 5, 6

短波赤外(SWIR)は900nmから1700nmの波長域で、可視光や近赤外では得られない情報を含んでいます。この波長域における特定波長の吸収は、植物の水分含有量や窒素濃度、さらにリグニンやセルロースの含有量と相関があり、これらは農業や森林管理における重要な指標となります。SWIR領域から得られるデータは、可視域での測定を補完・拡張するものであり、両者を組み合わせることで、自然環境の保全、気候科学、農業ビジネスに有用な知見を得ることができます。

課題:衛星用光学システムの構築

スペクトルアンミキシング技術を用いることで、作物残渣が占める割合を定量化できます。しかし、正確な結果を得るためには、非常に高いスペクトル分解能と良好なS/N比(SNR)が必要です。また、実用的な空間分解能を維持しながら、広い視野にわたってデータを収集することも求められます。こうした要件に基づいてFINCH EYEハイパースペクトルイメージングシステムは設計されており、900-1700nmの波長域で3nmのスペクトル分解能、50kmの地上観測幅、100mの空間分解能を実現することを目標としています。

比較として、PRISMAやEnMAPなどの最新鋭のハイパースペクトルイメージング衛星では、SWIR領域において30mの空間分解能、30kmの観測幅、10nmのスペクトル分解能を実現しています 7 8。FINCHでは搭載スペースの制約から高い空間分解能を実現することは困難ですが、入念に設計された分光システムによって、より高いスペクトル分解能と広い視野を実現できます。後者の利点により、FINCHは地上の観測対象地点をより頻繁に通過できるようになり、作付けや収穫時期などの一時的な現象を、より高い時間分解能で観測できます。

FINCH EYEには、Figure 2に示すプッシュブルーム方式のハイパースペクトルイメージング構成が採用されています。この方式では、地表の細長い1本の領域を撮像し、その光をカメラセンサーの直交方向にスペクトル成分として分光します。衛星は軌道上を移動しながら地表を走査することで、2つの空間軸と1つのスペクトル軸からなる情報を持つハイパースペクトル「データキューブ」を取得します。FINCH EYEでは、市販の対物レンズで地球を結像し、スリットによって地表の1本の領域を「選択」した後、レンズ-回折格子-レンズからなる分散リレー光学系を通して、スリットからの光をカメラセンサー上に再結像します。

Figure 2のグラフィカル表示
Figure 2: プッシュブルーム方式によるハイパースペクトルイメージングの概念図とFINCH EYEの光学系概略図。

光学システムの開発では、数多くの工学的なトレードオフを考慮しなければならず、決して簡単ではありません。超小型衛星では、容積と質量に厳しい制約があるため、設計にはコンパクトさと、打ち上げ時の振動に耐えられる堅牢性の両方が求められます。もう1つの重要な要素がコストです。専用設計の光学システムなら「完璧」な性能を実現できるかもしれませんが、非常に高額になります。さらに、私たちは学部生のチームであり、講義への出席や中間試験などもあるため、このプロジェクトに費やせる時間にも限りがあります。

カスタム光学部品と市販の光学部品を組み合わせることで、私たちの科学的目標とミッション目標を満たす「十分な性能」のシステムを構築できることがわかりました。さらに、信頼性が高く広く使用されている製品を活用できるというメリットもあります。

ソリューション:Edmund Opticsとのパートナーシップ

Edmund OpticsはUTATのスポンサーとして、ハイパースペクトルイメージングシステム用にTECHSPEC® SWIRレンズを提供しました。これらのレンズは、地球を撮像し、その光を分散リレー光学系へ伝送してハイパースペクトル画像を生成するために使用されています。Edmund Opticsの一部のレンズには宇宙飛行での使用実績があり 9、その設計および製造品質に対する私たちの信頼を裏付けています。

学生である私たちにとって、Edmund Opticsが公開している数多くの質の高いWeb記事は、光学設計を学ぶうえで非常に有益でした。光学の基礎や基本的な工学概念から、光学機器の解説、アプリケーションノートに至るまで、私たちはこれらの記事を繰り返し参照し、新しくチームに加わったメンバーの教育にも活用しています。こうしたナレッジベースは、Figure 3に示すイメージャーの光学ブレッドボード試作機を構築するうえでも非常に役立ちました。

Figure 3のグラフィカル表示
Figure 3: Edmund OpticsのTECHSPEC® SWIRレンズ2本を使用したFINCH EYEのブレッドボード試作機。イメージャーは、土壌、作物残渣、葉を混ぜた試料を収めたケースを観測しています。このケースを光学レールに沿って移動させながら、ハイパースペクトルデータキューブを取得します。図示のため、迷光を遮断するための遮光カバーは取り外し、写真上に光線を描き加えています。

FINCH EYEハイパースペクトルイメージャーの構築後、UTATは衛星本体へ組み込む前に、地上で性能試験と検証を行います。基本的な評価項目には、空間分解能、変調伝達関数(MTF)、スペクトル分解能、分光感度、スペクトル歪みなどがあり、これらの測定結果をイメージャーのアライメントとキャリブレーションに使用します。次のステップでは、制御された実験室環境において、より「現実的な」試料を測定します。具体的には、農地を模擬するため、容器に土壌、わら、草を混ぜた試料を用意します。この試験を通じて、データ処理パイプラインの妥当性を検証するとともに、土壌の含水率や観測天頂角の変化に対する堅牢性を評価します。

一連の試験の最終段階では、FINCH EYEを航空機に搭載して飛行試験を実施します。トロント都市圏周辺の農地を走査し、太陽光のグレアや雲による散乱の影響を含む生データを収集します。多くのハイパースペクトルイメージング衛星用ペイロードでは、衛星用途で一般的に実施される振動試験や熱試験と併せて、このような航空機による試験を認定試験の一環として行います。

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参考文献

  1. Eglers, “Bird's Eye View of Farmland”, Cape Town, South Africa, available: https://www.pexels.com/photo/bird-s-eye-view-of-farmland-636342
  2. Bhargava et al, "Hyperspectral imaging and its applications: A review", Heliyon Vol. 10(12) pp. 22308 (2024)
  3. Yu et al, "A critical review on applications of hyperspectral remote sensing in crop monitoring”, Experimental Agriculture Vol. 58 pp. 26 (2022)
  4. Wang et al, "A global perspective on agroecosystem nitrogen cycles after returning crop residue", Agriculture, Ecosystems & Environment Vol. 266 pp. 49-54 (2018)
  5. Lindstrom et al, "Crop residue removal and tillage - Effects on soil erosion and nutrient loss in the corn belt", USDA Agricultural Information Bulletins 309309 (1981)
  6. Bockus et al, "The impact of reduced tillage on soilborne plant pathogens", Annual Review of Phylopathology Vol. 36 pp. 485-500 (1998)
  7. Cogliati et al, "The PRISMA imaging spectroscopy mission: overview and first performance analysis", Remote Sensing of Environment Vol. 262 pp. 112499 (2021)
  8. Chabrillat et al, "The EnMAP spaceborne imaging spectroscopy mission: Initial scientific results two years after launch", Remote Sensing of Environment, Vol. 315 pp. 114379 (2024)
  9. Agenbag, Alvino, Bandara, et al, “Deployable optics for the Buccaneer Main Mission (BMM)”, The Aeronautical Journal Vol. 27(1318) pp.2068-2081 (2023)
     
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