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事例研究  /  宇宙状況認識を目的とした学生主導の高高度気球ミッション

REXUS/BEXUSのロゴ ケーススタディ

学生主導による宇宙状況把握(SSA)のための高高度気球ミッション

Lovejivan Sidhu | ヨーク大学 | カナダ・トロント

宇宙をより正確に観測することが、未来を切り拓きます。

人工衛星、運用を終えた宇宙機、ロケット本体、スペースデブリなど、軌道上の物体の増加に伴い、宇宙活動は急速に拡大しています。これらの軌道上の物体は、 宇宙物体(Resident Space Objects:RSOs)と呼ばれます。RSOの数が増加するにつれて、衝突リスクの低減と持続可能な宇宙利用の実現に向けて、それらを追跡・監視・分析する重要性が高まっています。このケーススタディでは、宇宙空間におけるRSOの明るさを検出・測定することを目的とした「SOBER (Space Object Brightness Evaluation and Reference)」ミッションをご紹介します。このミッションのペイロードは、ウォータールー大学、ヨーク大学、および海外の共同研究機関の学生によって開発されました。

RSOの検出と
高高度光学イメージングの必要性

RSOの検出には地上からの光学観測が有効ですが、大気のゆらぎ、天候、光害、観測条件などの影響を受けるという課題があります。宇宙空間からの観測ではこれらの影響を軽減できますが、コストが高く、容易に実施できるものではありません。SOBERミッションでは、この課題を解決するため、高高度気球に搭載した小型ペイロードを用いて、宇宙に近い環境から可視光および赤外線の有用なイメージングデータを取得できるかを検証しました。SOBERペイロードは、欧州宇宙機関(ESA)が支援するBalloon Experiments for University Students(BEXUS)プログラムのBEXUS 37高高度気球ミッションにおいて、BEXUSゴンドラに搭載され飛行しました。

打ち上げ前のシステム統合および動作確認時に、BEXUS 37ゴンドラへ搭載された学生開発のSOBERペイロード。
Figure 1: 飛行前チェック時にBEXUSゴンドラへ統合されたSOBERペイロード

学生主導によるSOBERミッション
宇宙状況把握(SSA)の研究

SOBERチームは、宇宙状況把握(Space Situational Awareness:SSA)の研究を目的として、小型のマルチスペクトルイメージングペイロードの設計、製作、試験、統合、および運用を行いました。主なミッションの目的は、可視光および赤外線波長域におけるRSOの明るさを検出・測定し、取得したデータをさまざまな地上観測データと照合することでした。また、高高度環境における宇宙状況把握(SSA)技術の実証を行い、将来の気球ミッションやCubeSatミッションに向けた技術実証実績を構築することも副次的な目的としていました。

打ち上げ前にイメージングシステムを上空へ向けて設置した高高度気球ペイロード。
Figure 2: 打ち上げ地点付近で上空に向けて設置されたSOBERペイロード

宇宙観測のための高高度気球ペイロードの設計

最大の技術的課題は、可視光・赤外線イメージング、オンボードコンピューター、電源制御、テレメトリー、熱保護、およびデータストレージを、高高度気球での飛行に適したコンパクトなペイロードへ統合することでした。ペイロードは、低気圧、極低温、刻々と変化する照明条件、振動、打ち上げ時の取り扱い、回収時の荷重など、宇宙に近い過酷な環境においても正常に動作する必要がありました。さらに、電源供給および通信のために、BEXUSゴンドラとのインターフェースにも対応する必要がありました。

主な設計上の課題は次のとおりです:

  • 上昇、定高度飛行、降下、および回収の各フェーズを通して、カメラおよび電子機器の性能を維持すること
  • 可視光・赤外線イメージング機器の温度を適切に管理すること
  • ペイロードをゴンドラへ搭載し、カメラを常に上空へ向けた状態に維持すること
  • フレームデータとテレメトリーデータの同期を維持しながら、大量の画像データを取得すること
  • 飛行中に通信が途絶えた場合でも、ペイロードが半自律的に動作できるようにすること
  • 着陸後に画像データおよびテレメトリーデータを確実に回収できるよう、データストレージを保護すること
BEXUSゴンドラとの統合に使用された機械的な取り付け部、電源接続、およびインターフェースを示すSOBERペイロード。
Figure 3: ゴンドラへの取り付け、電源、およびEthernetインターフェース

マルチスペクトルシステムの設計とシステム構成

学生チームは、ペイロードに改良型の3U CubeSat構造を採用し、空の視野を確保するため、ゴンドラ外縁部へ傾斜を付けて搭載しました。

システムは以下の機器で構成されています:

  • 星空および可視画像の撮影用Teledyne FLIR Blackfly S可視光カメラ
  • 熱画像撮影用Telops Radia M100赤外線カメラ
  • オンボードコンピューター(Raspberry Pi Compute Module 4)
  • ゴンドラの28V DC電源システムに接続された専用電源分配基板
  • ペイロード電子機器向けの安定化5Vおよび3.3V電源出力
  • 温度、気圧、湿度、およびシステム状態を監視する環境センサー
  • ゴンドラ通信システムを介したEthernet接続
  • 主要コンポーネントを保護するための熱制御機器、ヒーター、断熱材、およびインターフェースプレート
可視光カメラ、赤外線カメラ、コンピューター、および関連サブシステムを示した組み立て済みコンポーネント
Figure 4: ベンチレベルでのペイロード構成
統合されたコンポーネント全体の構成。
Figure 5: ペイロードのハードウェアと主要コンポーネント

可視光カメラは、プレートソルビングや追跡実証などの後解析に使用するRAW形式の星空画像を取得しました。赤外線カメラは解析可能な熱画像を取得し、本ミッションにおけるマルチスペクトルデータ収集の目標達成に貢献しました。

高高度イメージングを支える光学製品:
エドモンド・オプティクス 固定焦点レンズ

学生チームおよびSOBERミッションは、エドモンド・オプティクスのサポートを受けました。エドモンド・オプティクスは、可視光イメージングシステム用レンズとして、ペイロードに組み込まれた50mm 固定焦点レンズ(TECHSPEC® HPシリーズ 50mm #86-574)を提供し、BEXUS 37飛行中の画像取得に使用されました。このレンズは、コンパクトな筐体と優れた光学性能により、限られたペイロード内部でも安定したイメージング性能を実現し、重要な役割を果たしました。エドモンド・オプティクスの標準品イメージングレンズを採用したことで、光学系を新規開発する必要がなくなり、学生チームはペイロードの統合、試験、ミッション運用、および飛行後のデータ解析に注力することができました。

エドモンド・オプティクス製イメージングレンズを含む、SOBERペイロードの可視光・赤外線イメージング機器
Figure 6: 可視光・赤外線イメージング機器

ペイロードの開発、環境試験、
飛行適格性評価

SOBERペイロードは、飛行前に包括的な開発および検証プロセスを経ました。チームは、製造、部品調達、コンポーネント単位での試験、サブシステムの組み立て、ペイロード統合、機能試験、エンドツーエンド試験、環境試験、最終受入試験、および打ち上げ場所への輸送を完了しました。

実施した試験は次のとおりです:

  • 輸送時および飛行準備時の取り扱いに耐えられることを確認する機械試験
  • ミッション運用およびデータ取得に向けたペイロードの準備状況を確認する地上試験
  • 高温・低温環境での動作を確認する熱試験
  • 宇宙に近い環境を模擬した低圧環境での動作を確認する試験
  • カメラの応答を確認する赤外線キャリブレーション
  • スウェーデン到着後に実施した打ち上げ前試験
  • 個別実験試験、ハードウェア干渉試験、および飛行適合性試験
  • 打ち上げ直前に実施したレイトアクセスおよびRemove Before Flight(RBF)確認

飛行中のミッション運用は、以下の手順で進められました:

  1. 地上でのRBF確認 &
    運用開始

  2. 打ち上げ &
    上昇

  3. データ取得
    開始

  4. 定高度飛行 &
    データダウンリンク

  5. データ収集
    終了

  6. 降下

  7. 回収 &
    点検

  8. データ
    解析

ペイロードは、ゴンドラおよび飛行システムと完全に統合された状態で無事に打ち上げられました。上昇中には、システムの起動、通信の確立、およびイメージングシステムとヒーターの動作準備が確認されました。定高度飛行中には、高高度環境でミッションデータを取得しながら、可視光画像および赤外線画像を撮影しました。降下中は通信に制限が生じたものの、ペイロードは正常な状態を維持したまま回収されました。

想定される飛行時の温度条件下でSOBERペイロードを評価するための熱試験設備。
Figure 7: 熱試験設備とペイロード計測機器
SOBER宇宙状況把握(SSA)ペイロードを搭載したBEXUS 37高高度気球ミッションの打ち上げおよび飛行準備。
Figure 8: 高高度気球の打ち上げ

BEXUS 37飛行結果とマルチスペクトルイメージング性能

SOBERはBEXUS 37での飛行ミッションを成功裏に完了し、有益なミッションデータを取得しました。ペイロードは、上昇、定高度飛行、降下、および回収までの全工程を通じて、安定した熱性能および電気的性能を維持しながら動作しました。主な結果を以下の表に示します:

項目 結果
最高到達高度 約27 km
定高度飛行時間 約4.96時間
運用モード 地上局との半自律運用
ペイロード温度範囲 約−25.3~46.1°C
消費電力量 約110 Wh
ハウスキーピングデータ取得率 97%以上
飛行中の取得データ フレームデータおよびハウスキーピングデータ 約600 GB
BEXUS 37飛行中に記録した、ペイロードの温度、電力、および高度のハウスキーピングデータ。
Figure 9: 飛行時のハウスキーピングデータ

大きな成果の一つは、鮮明な星空を捉えたRAW形式の可視画像を取得できたことです。これらの画像は、Astrometry.netを用いたプレートソルビングや追跡解析に利用されました。また、ペイロードは赤外線画像と同期したテレメトリーデータも取得し、飛行中のマルチスペクトルデータ収集に成功したことが確認されました。

プレートソルビングによって恒星を識別し、カメラの指向方向を推定した可視画像
Figure 10: 可視画像のプレートソルビング結果

高高度気球およびCubeSatによる宇宙状況把握(SSA)ミッションの今後の展望

SOBERプロジェクトを通じて、学生たちはシステム設計、ペイロード統合、試験、飛行運用、データ解析に至るまで、航空宇宙ミッションのライフサイクル全体を実践的に経験しました。また、本プロジェクトは、学生が開発したコンパクトなペイロードであっても、高高度における可視光および赤外線イメージングによる宇宙物体(RSO)の追跡やスペースデブリ監視技術を実証することで、将来の宇宙状況把握に貢献できることを示しました。エドモンド・オプティクスが提供したTECHSPEC® 50mm 固定焦点レンズ (#86-574)は、可視光イメージングシステムに組み込まれ、BEXUS 37ミッションにおいて約27kmの高度で取得した可視画像と時刻同期されたテレメトリーデータの取得に貢献しました。これにより、高高度気球およびCubeSatを活用した将来の宇宙状況把握(SSA)ミッションに向けた基盤が築かれました。今後は、飛行中に取得した可視画像、赤外線画像、およびテレメトリーデータについて、プレートソルビング、宇宙物体(RSO)候補の検出、輝度補正、カタログ照合、ならびに可視光・赤外線データの比較解析など、さらなる解析を進める予定です。これらの成果は、光学系のキャリブレーション、熱設計、自動画像処理技術の高度化に貢献するとともに、学生による革新的な取り組み、既製品の光学部品、高高度気球による飛行試験を組み合わせることで、高度なイメージング技術を設計から飛行実証へと発展させられることを示しています。

チーム集合写真
Figure 11: SOBERミッションを担当した学生チーム(左から):Robert Miron、Alice Bucur、Lovejivan Sidhu、Andreas Poimenidis、Gurpreet Singh、Esmée Menting(SSCスタッフ)、Joshua Amar、Madison Prange
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エドモンド・オプティクスは、高品質ですぐに導入可能な光学部品を通じて、高度なイメージングプロジェクトをサポートしています。

SOBERミッションでは、TECHSPEC® HPシリーズ 50mm 固定焦点レンズを小型マルチスペクトルペイロードに組み込み、高高度気球飛行中の可視光イメージングに使用しました。コンパクトな筐体と信頼性の高い光学性能により、学生チームは光学系の開発ではなく、システム統合、試験、およびミッション運用に注力することができました。

このレンズが実現したこと:

  • コンパクトなペイロードでの安定した可視光イメージング
  • 約27kmの高度でのRAW形式による星空画像の取得
  • CubeSat型マルチスペクトルイメージングシステムへの統合
 
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