ビーム品質とストレール比

ビーム品質とストレール比

本ページはレーザーオプティクスリソースガイドセクション6.2, 6.3, 6.46.5です

レーザーの現実世界の性能や品質を正確に予測するために、ビームの品質を説明するレーザーのM2値を理解する必要があります。レーザーの性能が分かれば、それと一緒に用いる光学系の真の性能を特徴づけることで最終的なシステム性能の理解が可能になります。光学系の現実の性能とその理想的性能、即ち回折限界性能との比較は、ストレール比を用いることで行われます。 

M2因子

レーザーのビーム品質は、ビームの実際の形状と理想的なガウシアンビームの形状を比較したM2因子によって表されます。ISO規格11146では、M2因子を次式のように定義しています1

(1)$$ M^2 = \frac{\pi w_0 \theta}{\lambda} $$

式1において、w0はビームウエスト、θはレーザーの発散角、λは発振波長です (Figure 1)。ガウシアンビームの伝播で定義されている通り、ガウシアンビームの発散角は次式によって決まります:

(2)$$ \theta = \frac{\lambda}{\pi w_0} $$

この式で決定される発散角を式1に代入すると、ガウシアンビームのM2因子の公式を簡単に表せます:

(3)$$ M^2 = \frac{\pi w_0}{\lambda} \times \frac{\lambda}{\pi w_0} = 1 $$
Figure 1: レーザービームの発散角とビームウエスト
Figure 1: レーザービームの発散角とビームウエスト

この結果、1のM2因子は、回折限界のガウシアンビームに該当します。M2因子が (1より) 大きくなると、理想的ガウシアンビームからずれることを意味しています。1未満の値にはなり得ません。エルミート・ガウシアンモードのM2因子は、x方向が (2n + 1)、y方向が (2m + 1) で与えられます2。例えば、TEM13はx方向で3,y方向で7のM2因子を持ちます。代表的なHe-Neレーザーは、1から1.1のM2因子があります。

レーザービームの光学的パワー以外に、M2因子はビームの輝度も決定します。M2因子は、レーザーの波長を ガウシアンビームの伝播 の公式全てに見られるM2因子と波長の積の値で置き換えることで、ビームが伝搬する間のビーム半径の近似にも用いることができます3

M2因子は、ある発散に対してレーザービームがどの程度焦光することができるかを表す重要なパラメータです。M2因子が小さくなると、より締まった集光になり、ビームがもつパワーをより効率良く使用し、レーザーの潜在的実効パワーをより大きくすることができます。

M2因子の測定は、レーザー軸上の一平面でビーム形状を計測するのと違い、シンプルではありません。ISO 11146では、ニアフィールドとファーフィールドの両方において、光軸に沿った別々の位置で5回、ビーム半径測定を行うことを規定しています4。ビームにTEM00モードが全く含まれていなくても、そのビームをある特定面で理想的なガウシアンであるように見せることは可能です (Figure 2)。この特定面での断面が完全なガウシアン分布のように見えたとしても、そのビームはガウシアンビームとは全く異なる伝播を行い、より大きな発散角を持つようになります5。異なる平面での複数回の半径測定により、このビームと真のガウシアンビーム間の違いはすぐに明らかになることでしょう。測定されたビーム半径 (w(z)) は、次式のようにビームウエスト (w0)、波長 (λ)、及びM2因子に関連付けることができます

(4)$$ w \! \left( z \right) ^2 = w^2 _0 \left[ 1 + \left(z - z_0 \right)^2 \left( \frac{M^2 \lambda}{\pi w_0 ^2} \right)^2 \right] $$
Figure 2: このビーム断面は、TEM00モードが全く含まれていないにもかかわらず、ある面では理想的なガウシアンのように見えている。このことは、レーザーのM<sup>2</sup> 因子を決定する際に、レーザー軸に沿って強度測定を複数回行うことの重要性を表している
Figure 2: このビーム断面は、TEM00モードが全く含まれていないにもかかわらず、ある面では理想的なガウシアンのように見えている。このことは、レーザーのM2因子を決定する際に、レーザー軸に沿って強度測定を複数回行うことの重要性を表している

ビームパラメータ積

ビームパラメータ積 (BPP) は、レーザービームの品質を評価するのに用いられる別の基準であり、ビームウエストでのビーム半径とビーム発散半角の積で定義されます。一般的に mm・mrad の単位で表され、次式のようにM2因子に関係しています:

(5)$$ \text{BPP} = \frac{M^2 \lambda}{\pi} $$

BPPはM2因子に正比例するので、ビームパラメータ積が大きいほどビーム品質は悪くなります。BPPの最小値はλ/πで、これは理想的なガウシアンビームでのみ得られる値になります。

Power in the Bucket (バケツ内パワー)

Power in the bucket (PIB) は、ビーム品質を定義するもう一つの基準で、ハイパワー レーザーシステムや材料加工のアプリケーションに良く用いられます。PIBは、レーザーパワーが特定「バケツ (bucket)」に対してどの程度収まっているかを表し、ここでいうバケツとは、加工中の材料表面における特定スポット半径を通常指しています。これは一見単純なコンセプトに見えますが、ファーフィールドでのバケツの形状が適切に定義され、ニアフィールドでのビーム形状の仕様に依存した理想的シナリオと比較できるようにしなければなりません。
PIBに対する正確な業界標準規格はありませんが、多くは垂直または水平方向のビーム品質のどちらかで報告されています7

(6)$$ \text{Vertical Beam Quality} = \sqrt{\frac{\text{Ideal Power in Bucket}}{\text{Actual Power in Same Bucket}}} $$
(7)$$ \text{Horizontal Beam Quality} = \frac{\text{Actual Beam Radius at a Given Power}}{\text{Ideal Beam Radius at the Same Power}} $$

M2因子やBPPと同様に、PIB値が小さいことはビームの品質が高いことを意味します。PIBは、所定の「バケツ (bucket)」内でのパワーの分数をλ/Dの関数としてプロットすることで見える化できます。ここで、Dはニアフィールドビームの直径です (Figure 3)。垂直ビーム品質は、所定のλ/Dにおけるバケツ内での理想的ガウシアンビームのパワーと現実のビームのそれの比率の平方根となり、それがプロットの垂直方向の寸法に対応します。同様に、水平ビーム品質は、バケツ内の理想的ガウシアンビームのλ/D値と現実のビームのそれの比率となり、それがプロットの水平方向の寸法に対応します。

Figure 3: Real beam 1の垂直ビーム品質はACとABの比率の平方根で与えられ、Real beam 2の水平ビーム品質は、DFとDEの比で与えられる7
Figure 3: Real beam 1の垂直ビーム品質はACとABの比率の平方根で与えられ、Real beam 2の水平ビーム品質は、DFとDEの比で与えられる7

真円ビーム vs. 楕円ビーム

レーザービームの形状を考える時、レーザーが真円ビームと楕円ビームのどちらを出射するかを理解することが重要です。半導体レーザーダイオードは、活性領域が正方形ではなく矩形であることから、x方向とy方向で発散角の異なる楕円形状ビームを出射します (Figure 4)。開口が小さくなると回折が大きくなるため、活性領域の短い方向では発散角がより大きくなり、結果として非点隔差ビームを作り出します。大きな発散角を持つ軸がファスト軸、それに対して小さな発散角を持つ軸がスロー軸と定義されます。楕円ビームは、真円ビームに比べて焦光スポットサイズが大きくなるため、システム性能に影響を及ぼすかもしれません。より大きなスポットサイズによって放射強度 (単位面積当たりの放射エネルギー束) が真円ビームのそれよりも小さくなってしまうため、レーザーにより高いパワーを求める必要があるかもしれません。シリンダーレンズは、楕円ビームを真円化するのによく用いられます (Figure 5)。シリンダーレンズに関する更なる情報は、シリンドリカルレンズを使用する際の考察をご覧ください。

Figure 4: レーザーダイオードの形状は、2つの異なる発散角を持つ楕円形ビームを作り出してしまう
Figure 4: レーザーダイオードの形状は、2つの異なる発散角を持つ楕円形ビームを作り出してしまう
Figure 5: シリンダーレンズは、ファスト軸とスロー軸に別々に作用し、楕円ビームの真円化によく用いられる
Figure 5: シリンダーレンズは、ファスト軸とスロー軸に別々に作用し、楕円ビームの真円化によく用いられる

ストレール比

M2因子がレーザーの現実の性能を理想的ビームと比較しているのと同様に、光学系または光学部品のストレール比は、その現実の性能と理想的な性能の比較になります。球面や非球面レンズを始めとする集光用オプティクスのストレール比は、実際のオプティクスが点光源から一点集光した時の最大放射強度と、理論的な回折限界を持つオプティクスを用いて一点集光した時の理想的強度の比になります (Figure 6)7。ストレール比が1だとそのオプティクスは完璧で、収差フリーになります。業界で一般化している慣例として、ストレール比が0.8を超えていれば、そのレンズは「回折限界」と見なされます。

Figure 6: このレンズのストレール比は0.826で、0.8を超えていることから、回折限界であると考えられる
Figure 6: このレンズのストレール比は0.826で、0.8を超えていることから、回折限界であると考えられる

オプティクスのストレール比とRMS透過波面誤差のおおよその関係は、公式 8で表されます。ここで、Sはオプティクスのストレール比、σはオプティクスのRMS波面誤差です8。この近似式は、波面誤差が0.1波長未満の時に成立します。

(8)$$ S = \exp{\left[ - \left( 2 \pi \sigma \right)^2 \right]} $$

オプティクスの面の不規則性がそのストレール比にどのような影響を及ぼすかに関する情報は、非球面レンズのイレギュラリティとストレール比をご覧ください。

参考文献

  1. International Organization for Standardization. (2005). Lasers and laser-related equipment – Test methods for laser beam widths, divergence angles and beam propagation ratios (ISO 11146).
  2. A. E. Siegman, “New developments in laser resonators”, Proc. SPIE 1224, 2 (1990)
  3. Paschotta, Rüdiger. Encyclopedia of Laser Physics and Technology, RP Photonics, October 2017, www.rp-photonics.com/encyclopedia.html.
  4. International Organization for Standardization. (2005). Lasers and laser-related equipment — Test methods for laser beam widths, divergence angles and beam propagation ratios — Part 1: Stigmatic and simple astigmatic beams (ISO 11146-1:2005).
  5. A. Siegman, “’Non-Gaussian’ Beam”, OSA Annual Meeting, Long Beach, CA (1997)
  6. Hofer, Lucas. “M² Measurement.” DataRay Inc., 12 Apr. 2016, www.dataray.com/blog-m2-measurement.html.
  7. Strehl, Karl W. A. “Theory of the telescope due to the diffraction of light,” Leipzig, 1894.
  8. Mahajan, Virendra N. "Strehl ratio for primary aberrations in terms of their aberration variance." JOSA 73.6 (1983): 860-861.
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