偏光入門(偏光板の原理と仕組み)
Edmund Optics Inc.

偏光入門(偏光板の原理と仕組み)

偏光を理解し操作することは、多くの光学アプリケーションにとって極めて重要です。光学設計では、光の波長や強度に焦点が当てられることが多く、偏光は軽視されがちです。しかし、偏光は光の重要な性質であり、偏光を明確に測定しない光学系にも影響を与えます。偏光はレーザービームの集光に影響を与え、フィルターのカットオフ波長に影響し、不要な後方反射を防ぐためにも重要となります。ガラスやプラスチックの応力解析、医薬品の成分分析、生物顕微鏡など、多くの計測アプリケーションに欠かすことができません。また、偏光が異なると材料の吸収の度合いが異なるため、液晶画面や3D動画、まぶしさを軽減するサングラスなどにとっては重要な特性となっています。 

偏光を理解する

光は電磁波であり、この電磁波の電界は伝播方向に対して垂直に振動しています。この電界の方向が時間的にランダムに変動する場合は非偏光と呼ばれます。太陽光、ハロゲン照明、LEDスポットライト、白熱電球など、一般的な光源の多くは非偏光の光を発生します。光の電界の方向が明確である場合は偏光と呼ばれます。偏光としてもっとも一般的な光源はレーザーです。

電界の方向によって、偏光は3つのタイプに分類されます。

  • 直線偏光: 光の電界は伝播方向に沿った単一面に限定されます (Figure 1)。 
  • 円偏光: 光の電界は互いに垂直で振幅が等しく、位相差がπ/2の2つの直線成分で構成されています。その結果、電界は伝播方向を中心に円を描くように回転し、その回転方向によって左円偏光、右円偏光と呼ばれます (Figure 2)。 
  • 楕円偏光: 光の電界は楕円を描きます。これは、振幅が異なり位相差がπ/2ではない2つの直線成分の組み合わせにより発生します。これがもっとも一般的な偏光の状態で、円偏光や直線偏光は楕円偏光の特殊ケースとして捉えることができます (Figure 3)。  
 
Figure 1: 直線偏光の電界は伝播方向に沿ってY-Z面 (左) やX-Z面 (右) に限定される。
Figure 2: 直線偏光の電界 (左) は、位相差がなく、振幅が等しい2つの垂直な直線成分から構成される。結果として、電界波はY=X面に沿って伝播する。円偏光の電界 (右) は、位相差がπ/2 (90°) で振幅が等しい2つの垂直な直線成分から構成される。結果として、電界波は円を描いて伝播する。
Figure 3: 円偏光の電界 (左) は、振幅が等しく位相差がπ/2 (90°) の2つの成分を有する。しかし、この2つの成分の振幅が異なり、π/2以外の位相差を持つ場合、楕円偏光を生み出す (右)。

反射と透過にもっとも重要な直交する2つの直線偏光状態は、P偏光とS偏光と呼ばれます。P偏光 (ドイツ語のparallelに由来) 入射面に対して平行に電界が偏光し、S偏光 (ドイツ語のsenkrechtに由来) はこの面に対して垂直に電界が偏光しています。

入射面に対する相対的な向きで定義されるP偏光とS偏光。
Figure 4: 入射面に対する相対的な向きで定義されるP偏光とS偏光

偏光を操作する

偏光板

偏光板は、特定の偏光を選別するために使用されます。偏光板は 反射型、ダイクロイック型、複屈折型に大別することができます。アプリケーションにどのような偏光板が適しているかについてのより詳しい情報は偏光板のセレクションガイドをご覧ください。

反射型偏光板は、必要な偏光を透過し、それ以外の偏光を反射します。ワイヤーグリッド偏光板はその典型的な例で、平行に配置された多くの細いワイヤーで構成されています。このワイヤーに沿って偏光した光は反射し、このワイヤーに垂直に偏光した光は透過します。もう1つの反射型偏光板はブリュースター角を利用します。ブリュースター角とは、S偏光のみを反射する特定の入射角のことです。反射されたビームはS偏光で、透過したビームは部分的にP偏光になります。

ダイクロイック偏光板は特定の偏光を吸収し、その他の偏光を透過します。最新のナノ粒子偏光板はダイクロイック偏光板です。

服屈折型偏光板は屈折率の偏光依存性を利用します。異なる偏光は異なる角度で反射されるので、これを特定の偏光を選別するために利用することができます。

非偏光の光は、P偏光とS偏光のランダムな組み合わせが急速に変化したものと考えることができます。理想的な直線偏光板は、2つの直線偏光のうち1つのみを透過し、最初の非偏光強度 I0を半分に減少させます。

(1)$$ I = \frac{I_0}{2} $$

強度I0の直線偏光では、理想的な偏光板を通過する強度Iはマルスの法則で説明することができます。

(2)$$ I = I_0 \cos ^2{\theta} $$

ここで、θは入射直線偏光と偏光軸がなす角度です。平行軸の場合は100%、交差型偏光板と呼ばれる90°の軸の場合は0%の透過率であることがわかります。現実世界のアプリケーションでは透過率が正確に0%になることはありません。そのため、偏光板は消光比によって特徴づけられます。消光比は直交する2つの偏光板の実際の透過率の決定に利用することができます。

波長板

偏光板が特定の偏光を選別してそれ以外の偏光を切り捨てるのに対し、波長板は既存の偏光を減衰、偏向、変位させることなく変化させます。波長板は、偏光の一成分をそれが直交する成分に対して位相を遅延させることによってこれを行います。アプリケーションにとってどの波長板が適切かを判断するには、波長板と位相差板の理解をお読みください。正しく選択された波長板は、あらゆる偏光状態を新しい偏光状態に変換することができます。波長板は直線偏光を回転させ、直線偏光を円偏光に、またはその逆に変換するために最もよく使用されます。

アプリケーション

偏光の制御することは様々なイメージングアプリケーションで有用です。偏光板を光源、レンズ、もしくはその両方に装着することで、光の散乱によるグレアの除去やコントラストの向上、反射物からのホットスポットの除去が可能になります。これにより、色やコントラストをより鮮明にしたり、表面の欠陥や隠れた構造をより明確にすることができます。

反射ホットスポットとグレアを低減する

Figure 5では、直線偏光板をマシンビジョンシステム内のレンズの前に置き、電子チップがはっきりと見えるようにグレア (ぎらつき) を除去しています。左の画像 (偏光板なし) は対象物とカメラセンサーの間の多くのガラス面から散乱するランダムな偏光を示しています。チップの多くの部分が非偏光の光のフレネル反射により見えなくなっています。右の図 (偏光板あり) は対象物の細部を見えなくするグレアが無く、妨げられることなくチップを観察、分析、測定することができます。

 
Figure 5: マシンビジョンカメラのレンズの前に偏光板を置くことにより、レンズと電子チップの間の反射面からの迷光を低減させる。

同様の現象はFigure 6でも見ることができます。左の画像 (偏光板なし) では太陽からの非偏光な光がエドモンド・オプティクスの建物の窓と作用し、この光の多くが窓で反射しています。右の画像では、偏光フィルターを用いることによって、一方のタイプの偏光に富んだ反射光をカメラセンサーから遮断し、もう一方の偏光で撮影者が建物の中を見やすくしています。

 
Figure 6: 偏光板をDSLRカメラのレンズの前に置き、部分的に反射する植物の葉面からのグレアを低減している。

水面の観察も、偏光板によりいかに反射グレアが低減されるのかを見る特徴的な方法です。Figure 7では、左の画像では水面は反射して見え、水面下の様子が見えにくくなっています。しかし、右の画像では水底にある岩屑をよりはっきりと見ることができます。 

 
Figure 7: 偏光板をDSLRカメラのレンズの前に置き、部分的に反射する水面からのグレアを低減している。

ホットスポットは、拡散反射する視野内にある、反射率の高い部分です。Figure 8では、ホットスポットを低減するために偏光板をカメラのレンズの前、およびその視野を照射する光源の上に偏光が置かれています。

 
Figure 8: 光源の上に直線偏光板を置き、その偏光板に対して垂直方向の偏光板をカメラのレンズの上に置くことでホットスポットを除去する。

2つの直線偏光板を直角に配置して偏光を交差させることでホットスポットを低減もしくは完全に除去することができます。

Figure 9: この配置は散乱、グレア、もしくはホットスポットを低減もしくは除去する1つの方法。光源は偏光板によって偏光し、結像する反射光は再度アナライザーによって偏光される。
Figure 9: この配置は散乱、グレア、もしくはホットスポットを低減もしくは除去する1つの方法だ。光源は偏光板によって偏光し、結像する反射光は再度アナライザーによって偏光される。

2枚の偏光板の偏光軸の角度差は、偏光板全体の光の減衰量に直接関係します。角度のオフセットを変えることで、2枚の偏光板の光学濃度を変化させ、NDフィルターを使用するのと同様の効果を得ることができます。これにより、視野全体が均一に照明されるようになります。

コントラストと色彩の効果の向上

リングライトガイドは、均一な拡散照明として人気のある光源です。しかし、グレアやリング自体の反射が起きる可能性があります。リングライトの出力とレンズを別々に偏光することによって、こうした効果を低減し、Figure 9のように表面の細部を鮮明にすることができます。 

リングライトとレンズを別々に偏光することによって、グレア効果を大幅に低減し、表面の重要な細部を明らかにすることができる。
Figure 10: リングライトとレンズを別々に偏光することによって、グレア効果を大幅に低減し、表面の重要な細部を明らかにすることができる。

Figure 11はエドモンド・オプティクス本社で撮影した写真です。カメラレンズの前に偏光板を使用した場合とそうでない場合の空、ガラス、木の葉の色の違いを示しています。空気中の分子に含まれる電子が光を多方向に散乱させるため、偏光板なしでは左の画像のように、空の色が薄く見えます。また、木の葉や草の葉の表面は、ごく僅かに反射しています。偏光板を使用すると、これらの表面からの反射光の一部がフィルターにかかり、表面の色が暗く感じられるようになります。

 
Figure 11: 空を撮影する場合、レンズの前に偏光板を装着すると、空の色が劇的に変化する。

ストレス評価

ガラスやプラスチックなどの非晶質固体では、材料中の温度や圧力プロファイルによる応力が、材料特性に局所的な変化や勾配を与え、材料は複屈折し非均質となります。これは、透明な物体では光弾性効果を利用して、応力とそれに関連する複屈折を偏光法で測定することができるため、定量化することができます。

Figure 12: 偏光していない2枚のガラスはクリアに見えるが、偏光板を使うことで材料の応力変化が見え、それが色の変化として現れる。</h5>
Figure 12: 偏光していない2枚のガラスはクリアに見えるが、偏光板を使うことで材料の応力変化が見え、それが色の変化として現れる。

直交する偏光板の間に応力がかかっていない物体は完全な暗視野が得られるはずです。しかし、内部材料応力がある場合、局所的な屈折率の変化が偏光角を回転させ、結果的に透過率の変化につながります。 

化学物質の同定

化学、製薬、食品や飲料の分野では偏光の制御も非常に重要です。医薬品有効成分や糖類など、多くの重要な有機化学化合物は複数の配向を有します。複数の配向を持つ分子の研究は立体科学と呼ばれます。

原子の種類や数が同じで、分子配列が異なる分子化合物は立体異性体と呼ばれます。これらの立体異性体は「光学活性体」であり、偏光を異なる方向に回転させます。回転量は化合物の性質や濃度によって決まるため、偏光分析法によって化合物の検出や濃度の定量が可能になります。これは、試料中にどのような立体異性体が存在するのかを特定するための前提となります。立体異性体は化学的効果が大きく異なるため、これは重要になります。例えば、立体異性体リモネンはオレンジやレモンの特徴的な香りの元となる化学物質です。

Figure 12: (+)-LimoneneまたはD-Limonene (左) はオレンジの香りに関連している。これは、オレンジがこの立法異性体について他よりも高い濃度を有するためである。(+)-Limoneneは入射光の向きを回転させる。(-)-LimoneneまたはL-Limonene (右) はレモンの香りに関連している。これは、レモンがこの立法異性体について他よりも高い濃度を有するためであり、(+)-Limoneneとは反対の向きに入射光を回転させる。
Figure 13: (+)-LimoneneまたはD-Limonene (左) はオレンジの香りに関連している。これは、オレンジがこの立法異性体について他よりも高い濃度を有するためである。(+)-Limoneneは入射光の向きを回転させる。(-)-LimoneneまたはL-Limonene (右) はレモンの香りに関連している。これは、レモンがこの立法異性体について他よりも高い濃度を有するためであり、(+)-Limoneneとは反対の向きに入射光を回転させる。

偏光顕微鏡

DIC (微分干渉コントラスト) 顕微鏡など、さまざまな顕微鏡技術に偏光板が利用され、さまざまな効果が得られています。

シンプルな偏光顕微鏡システムでは、顕微鏡光源の前、試料ステージの下に直線偏光板を設置し、システムに入射する光を偏光させます。試料ステージの上にはもう1つ偏光板を置きます。この偏光板は、試料を分析する際に1つ目の偏光板を固定したまま回転させることで目的の効果が得られるため、「アナライザー」と呼ばれます。その後、アナライザーと偏光板の偏光面が90°離れるようにアナライザーを回転させます。これが達成されると、顕微鏡の透過率は最小となります (直交偏光板)。光の透過量は、偏光板とアナライザーの消光比に比例することになります。

偏光板に対してアナライザーを垂直にアライメントした後、異方性 (または複屈折) 試料を試料ステージに載せます。試料は、その光がアナライザーに到達する前に、試料の厚さ (つまり光路の距離) と試料の複屈折に比例して、指定された量だけ偏光を回転させます。

このアナライザーは、偏光板で偏光された光源からの光のうち、試料による位相シフトの影響を受けた光のみを透過させ、影響を受けていない光をすべて遮断します。試料の複屈折がわかれば、それを用いて試料の厚さを決めることができます。逆に、試料の厚さがわかれば、それを用いて試料の複屈折を推定することができます。このために使用できる便利な変換チャートはミッシェル‐レヴィの干渉色図表として知られています (Figure 14)

Figure 14: ミッシェル‐レヴィの干渉色図表は、複屈折と材料の厚さに基づいた複屈折材料の色の関係を示している。
Figure 14: ミッシェル‐レヴィの干渉色図表は、複屈折と材料の厚さに基づいた複屈折材料の色の関係を示している。
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